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コロナ禍による経営難を野良猫一家に救われた!保護猫とジオラマに触れられる「ジオラマ食堂」 

コロナ禍による経営難を野良猫一家に救われた!保護猫とジオラマに触れられる「ジオラマ食堂」 

大阪府大阪市天王寺にある「ジオラマ食堂」は、ジオラマを眺めつつ、保護猫と触れ合える、斬新なお店。

店内には線路総延長50m以上にもなる鉄道模型台と、小さな鉄道模型台が楽しめる猫部屋が。

一見、何の接点もなさそうなジオラマと保護猫。そのふたつを結びつけたのは、瀕死状態の赤ちゃん猫でした。

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瀕死状態だった生後10日の赤ちゃん猫との出会い

2005年に「てつどうラーメン」から始まったジオラマ食堂は、これまで様々な場所でジオラマの魅力を発信し続けてきました。

例えば、2007年、北新地にジオラマバー「恋道路(レトロ)」をオープン。2018年には天王寺高架下にあった「鐡道館」を現所在地に移転させ、名称を「ジオラマ食堂」に変更。

職人たちが丹精込めて作ったジオラマを楽しもうと、お店には日々、たくさんの鉄道ファンが押し寄せていました。

ところが、2020年、コロナ禍により経営難に。家賃の支払いを厳しく思うようになったオーナーの寺岡さんは毎晩、賃貸契約の解約を悩むようになりました。

そんな時に出会ったのが、子猫のシンバくん。

シンバくんは誰かの手によって、お店の隣にある保育所に遺棄されていた子。当時、シンバくんは生後10日ほどで、瀕死の状態。

保育所はグループで運営している施設であるため、保育士から「死にかけている赤ちゃ ん猫 を自宅へ連れて帰り生き返らせました」との報告を受けた寺岡さんは目の前で必死に生きようとしている命を尊く思い、自宅で育てることにしました。

それから、しばらく経つと、なぜかお店にキジトラの成猫がやってくるように。翌月には、お店の隣にあるビルのゴミ箱裏で、3匹の子猫が発見されました。実は、キジトラはシンバくんのお母さん。子猫たちは、シンバくんのきょうだいでした。

寺岡さんは保護団体の力を借り、一家を保護。店内にケージを置き、母猫と子猫たちを迎え入れました。

左から、母猫のサラちゃん、兄妹猫のレオくん、ライアちゃん、ナラちゃん

過酷な状況で生きてきたからか、猫たちは当初、みな警戒心が強く、寺岡さんやお店のスタッフに威嚇をし、攻撃。しかし、寺岡さんたちの努力により、徐々に心を開き、甘えてくれるようになりました。

そんな寺岡さんは2021年、大きな決断をします。きっかけは、近所でサラちゃんの姉妹のママちゃんと、その子どもを保護したこと。

寺岡さんはその子たちと接する中で、猫の里親探しを始めようと思うようになりました。

ジオラマ食堂にお客様が戻れば、猫と触れ合う場所にできないかなあと思うようになったんです。

そこで、自治体と繋がりのあるNPO法人と連携し、2021年9月から殺処分を逃れた保護猫の受け入れを開始。

私たちは、それを「入園」と言っています。以前のお客様の層は、皆無に近いです。今は圧倒的に女性が多く、幅広い猫愛豊かな方々が笑顔で帰られます。

また、猫専用ホテルは稼働率が低いため、保護猫シェルターも兼用できるはずと考えた寺岡さんは2021年10月、キャットホテル「ジオショク」をスタート。

こうした斬新な取り組みやお店にいる猫たちの愛くるしさに注目が集まり、「ジオラマ食堂」は窮地を脱することができました。

取材を行った2022年2月上旬、店内では全50匹の猫が生活。

1階はサラお母さんの子どもたちや親族、保護依頼を受けた猫の14匹。2階には殺処分から逃れた、36匹の猫たちがいます。

1匹の猫から始まった、お店の再生劇。もしかしたら、それは、自分たちの命を見過ごさなかった寺岡さんへ恩返しがしたいというサラちゃん一家の想いが引き寄せたものだったのかもしれません。

猫たちにジオラマを壊されては再生する毎日が幸せ

お店にあるジオラマは駅や展望台の名称に猫要素が盛り込まれており、ユニーク。

熊野古道の入口、三重県紀北町に荷坂峠があるのですが、私は高低差250mある紀伊半島の漁師町「紀伊長島」に、よく汽車の写真を撮影に行っていました。その町の名称を、猫に馴染んでつけています。

そして、山間の駅「猫幸福」はSNSで交流のある方の亡き愛猫が、真夜中にここに降りてきて、サラちゃんたちと遊べるように…との思いから作られた駅です。

猫を迎えてからというもの、お店ではジオラマを猫たちに壊されては再生することが日課に。

猫たちはジオラマと思い思いに触れ合いながら、お客さんをもてなしています。

ジオラマを作ることが仕事であった私やスタッフたちは、修理の達人になりました。猫たちは山の上から下を見下し、列車が来たらhug(猫パンチ)。お客様が座られたら、様子を伺いに挨拶にいきます。

当初は、猫たちが暴れるたび、寺岡さんたちはヒヤヒヤしていましたが、今では「猫に怒る」という概念が消え去ったのだとか。お店では、猫たちの健康面を考えた配慮も行っています。

塗料を動物対応のものに変更し、造作部はほぼ半固定に改良することで猫たちがつまずかないようにしています。

床は毎日、電解水で乾拭き。人が素足で歩けるほど、清掃に気を配っています。

寺岡さんにとって、ジオラマ食堂は唯一無二の存在。

アンケートで、お客様から頂く「癒されました」「こんなステキな場所を東京にも作ってください」「明日から頑張れる勇気をもらいました」などの声を見ると、やってよかった、笑いと癒しの120分と思えるようになりました。

人に、ここまで喜んで貰える店舗を作れたのは、生涯で初めて。そう語る寺岡さんは、TwitterインスタグラムYouTubeなどでお店の魅力を積極的に配信中。

より多くの人や猫を笑顔にしようと、奮闘し続けています。

店内は触れ合いの場なので抱っこやなでなで、カキカキはOKです。ただ、小さなお子様にも命の大切さを分かって頂きたいという意味も込め、人数制限を設けながら猫たちとの時間を過ごして頂いています。

そう語る寺岡さんは今日も、ジオラマと戯れる無邪気な保護猫たちと、多くの人々を笑顔にしています。