一度は人に愛された子たちが飼育放棄され、人の愛を求めながら施設で亡くなるという悲しい最期をひとつでも減らしたい…。そんな思いから、二岡さんは2024年1月、広島・廿日市に「シニア猫専門保護猫カフェShhh…」をオープンした。
約1年間で二岡さんが里親に繋げたシニア猫は、14匹。現在、お店では12匹のシニア猫たちが心許せる里親との出会いを待っている。
動物保護施設でシニア猫の現状に衝撃を受け、お店をオープン
二岡さんのお店では、広島を拠点とする「NPO法人 みなしご救援隊犬猫譲渡センター」がレスキューした子を迎え入れている。
NPO法人 みなしご救援隊犬猫譲渡センターは、「広島本部」と「湯来シェルター」「東京支店」という3ヶ所のシェルターを持つ。お店で引き取るのは主に、湯来シェルターの子だ。
みなしご救援隊犬猫譲渡センターの湯来第2シェルター
10歳超えのシニア猫が湯来シェルターに来た際、情報を共有してもらい、引取りを検討している。
二岡さんは、初めてNPO法人 みなしご救援隊犬猫譲渡センターのシェルターを訪れた際、成猫の引取りがほとんどない現状を知り、衝撃を受けた。
10歳を超えたシニアの子は、施設に保護されれば施設で最期を迎えるのが当たり前。施設にいたシニア猫たちはわらわらと集まり、撫でてとアピールしてきました。
多くのシニア猫たちに、再び愛を掴んでほしい。そう思い、シニア猫専門の保護猫カフェの立ち上げに踏み切ったのだ。
店内には宮島の海を見られる開放的な海側の席も
子猫や若い猫が同じ空間にいれば、シニア猫は見向きされない。でも、シニア猫専門の保護猫カフェなら、シニア猫の良さに気づいてもらえると思いました。
二岡さんはNPO法人 みなしご救援隊犬猫譲渡センターのシェルターから猫を引き取り、お店で里親を探したいと考え、職員さんとの関係作りに力を入れた。
だが、シェルターには営利目的で犬猫の引き取りを申し出る連絡が入ることがあったため、職員さんは当初、二岡さんを警戒したそう。それでも、二岡さんは諦めなかった。時間をかけ、想いを一生懸命伝えた。
すると、職員さんの態度に変化が。想いを受け止め、二岡さんの取り組みに協力してくれるようになったのだ。
悲しい思いをする動物を減らしたいという施設の方の強い思いも知ることができたので、必要な出来事だったのだと思っています。
猫エイズキャリアの“みーちゃん”が幸せを掴んだ日
シニア猫専門の保護猫カフェという新しい試みだけに、オープン当初は「シニアに注目してくれて嬉しい」という反響が届く一方、「子猫はいないの?」という連絡を受けることもあったという。
店名に“シニア猫専門”とつけていても、猫カフェ=子猫のイメージが強いことを思い知りました。
だが、徐々にお店のコンセプトが広まっていくと、亡きシニア猫を想う人や年齢的に若い猫と暮らすのが不安な方が来店してくれるようになった。
全く猫と暮らしたことがないファミリー層のお客様がシニア猫たちと過ごす中で、「ぜひ引き取りたい!」と魅力に気づいてくださったこともありました。シニア猫の落ち着きや飼いやすさが伝わって嬉しかった。
お店を運営する中では、心打たれる瞬間に直面することがたくさんある。中でも、特に忘れられないのが、猫エイズキャリアのみーちゃんが幸せを掴んだ日のことだ。
美しい三毛猫みーちゃん
二岡さんは、店内に猫エイズキャリアの子を隔離するスペースを確保できないことから、動物保護施設から猫を引き取る際には事前に動物病院でウイルス検査を行い、猫エイズ陰性であることを確認している。
だが、みーちゃんのことはどうしても里親に繋げたいという気持ちが勝った。
みーちゃんは事前検査で猫エイズキャリアが判明したが、他の猫にも増して人間が大好きな愛らしい性格。この子なら、エイズキャリアでも家族が見つかるのではないか…。そう思った二岡さんはみーちゃんの引き取りを決断。1階の自宅スペースで過ごしてもらいつつ、家族を探した。
すると、3週間ほど経った頃、嬉しい出会いが。猫のお迎えを前向きに検討していた来店客が、みーちゃんの家族になってくれたのだ。
お客様はインスタグラムを見て、みーちゃんを見て知っていたそうですが、そのかわいらしさからとっくに誰かにもらわれたと思っていたようで…。「まだうちにいます」と伝えて引き合わせたら、みーちゃんに一目惚れでした。
そのお客さんは猫エイズキャリアであることも含め、みーちゃんを受け入れてくれたそう。
みーちゃんもお客様の顔をじっと見つめていて…。なんだか運命の出会いを目の前で見た気がして感動しました。
健康管理とシニア猫のメンタルケアに励む日々
そうした喜びを噛みしめられる一方、お店を運営する中では大変なこともたくさんある。例えば、シニア猫は何らかの健康問題を抱えていることも多いため、体調の変化が早期発見できるよう、日々細やかな観察が必要だ。
二岡さんは少しでも異変があれば動物病院へ連れて行くだけでなく、季節の変わり目に猫風邪予防のサプリを飲ませたり、腎臓に配意したフードをあげたりしてもいる。
シニア猫あるあるな歯周病もしっかりとケア。抜歯手術を受けさせたり、口腔ケアサプリを飲ませたりし、猫たちが快適な暮らしを送れるように配慮している。
また、シニアという成熟した猫たちが暮らす場だからこそ、猫同士の相性問題も慎重にケア。最近ではプチリフォームをして、小部屋を増設。より、相性を加味した棲み分けが行えるようにした。
今後の課題は、SNSやYouTubeでの認知の拡大。もっとシニア猫の魅力が伝わる内容を届けつつ、より安定した経営に不安のない保護猫カフェにしていきたいです。
腎臓病の新薬が完成し、猫の長寿化がますます進んでいくであろうこの先、私たちには「猫の老い」との向き合い方に悩む日がきっと来る。そんな未来が差し迫る中で心に留めておきたいのは、ひとりぼっちになったシニア猫の中には、飼い主を思わぬ形で失った子も少なくないという事実だ。
愛猫や近所の猫を守れるよう、まずは自分や家族が突然いなくなっても備えを考えていきたい。「シニア猫専門保護猫カフェShhh…」は命の重みと守り方を改めて考えさせてもくれる、唯一無二の場所だ。