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難病「アミロイドーシス」と闘った愛猫――約1ヶ月半の闘病で家族が学んだ“見逃してはいけない異変”

難病「アミロイドーシス」と闘った愛猫――約1ヶ月半の闘病で家族が学んだ“見逃してはいけない異変”

治らない病気の怖さを痛感し、憎みもした――。そう話すはるかさんは愛猫ミイちゃんを、アミロイドーシスで亡くした。

アミロイドーシスは根治法が見つかっていない、難病。亡くなってからの検査で初めてアミロイドーシスであったことが判明するケースもあるため、当事者談が少ない。はるかさんは自分たちの闘病生活が、アミロイドーシスの早期発見に繋がることを願っている。

母親が保護した“道路で動けなくなっていた子猫”をお迎え

2018年5月27日、はるかさんの母親は道路でミイちゃんを保護した。当時、ミイちゃんは、まだ目が開いていないほどの幼さ。

保護時は、生後1ヶ月半ほど。警戒心もなく、その場から動かなかった

保護後は動物愛護センターに電話をして相談したが、貰い手がいない場合は殺処分される可能性があると知り、娘のはるかさんに相談。ミイちゃんはひとまず、はるかさんが預かることになった。

だが、対面時、はるかさんはミイちゃんに一目惚れ。この子を守りたい。そんな気持ちが芽生え、正式に家族として迎え入れた。

私は犬派でしたが、甘える姿に魅了されて…。猫派になるきっかけをくれた子です。

ミイちゃんは、はるかさん夫妻のどちらも好きだったが、旦那さんのことは特に大好きだったよう。旦那さんの帰宅時には、よだれを垂らして甘えていたため、はるかさんはよく嫉妬していたそうだ。

ただ、就寝時ははるかさんと一緒に寝ていた

病院嫌いでしたが、スタッフさんに噛みつくことはなく、家族以外に抱っこをされても平気な子でした。

口腔内のできものが「アミロイドーシス」を疑うことに繋がった

異変が見られたのは、保護から1週間後。膿が溜まり、鼻が腫れたのだ。動物病院では副鼻腔炎と診断され、抗生剤で炎症を抑える治療がスタート。

鼻が腫れ始めてきた頃

だが、数ヶ月後、避妊手術の際に鼻の膿を検査したところ、黄色ブドウ球菌に抗生剤が効きにくくなった「メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)」が見つかった。

エコー検査では、副鼻腔炎によって鼻の骨が溶けて変形していることが分かりました。でも痛みは次第になくなっていったようで、鼻を撫でてもらうのが好きでした。

その後、合う薬が見つかって症状は落ち着いていったが、3年ほど経った2021年6月、口腔内の横側に白いできものができた。

症状が落ち着いていた頃

ミイちゃんは保護後から口腔内の上部がただれていて、ウェットフードはミキサーにかけてシリンジからあげないと食べられない状態でした。

服薬治療を始めるも、できものは小さくならず。そこで、2021年7月上旬、摘出手術を受けることになった。

だが、手術前のエコー検査で衝撃の事実が判明する。ミイちゃんは脾臓も腫れていたのだ。医師は、口腔内の腫瘍と共に脾臓も摘出することにした。

ところが、手術中にも予想外の事態が…。腫瘍は口腔内だけではなく、喉の奥や肝臓にも見られたのだ。若いのに脾臓が腫れていたことや、「血清アミロイドA蛋白(SAA)」の数値が高いままであることから、医師は初め、リンパ腫を疑がった。

だが、猫エイズや猫白血病が陰性だったことなど、様々な情報を踏まえて違う病気の可能性を考えるように。そして、考えられるどの病気にも当てはまらないことから、アミロイドーシスを疑うようになった。

ミイちゃんが子猫時代からずっと慢性炎症を患っていたのも、病名を判断する情報になったそうです。

アミロイドーシスは、アミロイドという異常なタンパク質が臓器に沈着し、機能障害を引き起こす病気だ。

医師はミイちゃんたちをずっと見てきたからこそ、病気を特定して前に進みたいと思い、「アミロイドーシスの可能性がある」と告知。病名を特定するため、追加の検査が行われることになった。



「アミロイドーシス」と診断された愛猫…症例が少ない難病と向き合った日々

検査のため、ミイちゃんから摘出した脾臓と肝臓の一部は病理検査に出され、アミロイドーシスの診断に有用だと言われている染色法(コンゴーレッド染色)が行われた。

その結果、アミロイドーシスであると判明。アミロイドーシスは症例が少なく、かかりつけ医も、実際に治療をするのは初めての経験だったという。

避妊手術後のミイちゃん

余命が分からないので明日、亡くなるかもしれないし、1年生きているかもしれないなどと聞き、涙が止まりませんでした。でも、やれることをしてあげたいから頑張ろうと思ったんです。

家族は緩和ケアをメインにしつつ、貧血の薬や炎症を抑える薬などを服用する対症療法も行った。だが、ミイちゃんの状態は日に日に悪化。性格は凶暴になり、認知症のような症状や黄疸も見られるようになった。

皮膚が脆くなり、毛を少し引っ張るだけでごっそり抜けるようにもなって…。

体重の減少から、ふらつきが見られたため、ジャンプで登る場所には滑り止めマットを敷き、怪我をしないように対処。頻繁に痙攣をし、寝たきりになってからは仕事で数日間、留守番させることが心配になり、入院してもらったこともある。

その時は毎日、仕事の合間をぬってお見舞いに行き、「○日に迎えに来るから待っててね」と声をかけていました。その数日間は痙攣が一度もなく、穏やかに過ごしてくれていました。

愛猫から学んだ「アミロイドーシス」の怖さと口腔ケアの大切さ

急変の連絡もなく、無事に迎えることができた退院日。お迎えのため、病院へ行ったはるかさんは、酸素マスクをしているミイちゃんを見て驚いた。

私が来院する2時間前から、再び痙攣起きるようになったんです。

ミイちゃんは今日、迎えに来ることを分かっていたから頑張って待っていたんですね――。医師はそう言い、「ミイちゃんは病院に来るよりも、おうちで過ごしたいのだろうと思うので、なるべく自宅で過ごすようにしたほうがいいかもしれません」と告げた。

その言葉を聞いたはるかさんは、自宅での看取りを覚悟。できる限り自宅で一緒に過ごし、不安なことがあった時には病院に電話して指示を受けるようになった。自宅では痙攣を起こすトリガーにならないよう、物音を立てないことを意識しながら過ごしていたという。

病気の発覚から1ヶ月半ほど経った2021年8月24日、ミイちゃんははるかさんの留守中に天国へ旅立った。

亡くなる前日に撮った、かけがえのない写真

調子良さそうな日が続いていたので闘病開始後、初めてのお留守番をさせた日に亡くなってしまいました。

かかりつけ医は診療時間外にもかかわらず、駆け込んできたはるかさんからミイちゃんを預かり、翌日、綺麗な状態にして引き渡してくれたという。

一緒に過ごせた期間は、3年4ヶ月

亡くなる前には、寝たきりなのに体を動かして、夜中にベッド下の奥まで移動していることがたびたびありました。もしかしたら、私たちが留守の時に亡くなることを決めていたのかもしれません。

ミイちゃんの闘病を通してはるかさんが痛感したのは、口腔内をチェックすることの大切さだという。腫瘍ができる前に口の中をもっとチェックし、口内炎が悪化しないように口腔ケアをしていたら…と、今でも自分を責めることがある。

ミイちゃんは唯一無二のかけがえのない存在。ペットではなく家族でした。

自身の体で、命の尊さとアミロイドーシスの怖さを教えてくれたミイちゃん。短くも濃いニャン生を生き切ったミイちゃんとはるかさんの努力が広まることで、アミロイドーシスという難病が早期発見されやすくなってほしい。