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愛らしい首の動きに愛猫の姿が見え隠れ…オーダーメイドで作る張り子の「ねこべこ」

愛らしい首の動きに愛猫の姿が見え隠れ…オーダーメイドで作る張り子の「ねこべこ」

「ねこべこ」…聞き慣れない言葉ですが、どんなものか想像がつくでしょうか。ねこべこは「赤べこ」のように愛らしく首を振る張り子の猫です。制作するのは、愛猫家であるクラフト作家の「猫に真珠」さん。2020年頃から制作を始めたねこべこは、今ではカプセルトイとして販売されるほどの人気ぶりです。ねこべこ誕生のきっかけ、制作の裏話から、モデルとなる愛猫との暮らしまで、猫に真珠さんにお話を伺いました。

愛猫の様子をヒントに作り始めた「ねこべこ」

ねこべこ作りのきっかけは、2019年のクリスマスイブにお迎えした愛猫、ラガマフィンの右近(うこん)くんでした。

子猫時代の右近くん

右近くんは少し病弱な子で、尿路結石や真菌症、停留睾丸の手術と、闘病が続きました。心配の中であったものの、猫に真珠さんはその愛情と感受性を通して、ユニークな目線で愛猫を見ることになります。

病気というのは嫌な思い出ではあるのですが、ねこべこ制作のきっかけともなりました。右近が真菌症の治療中に付けていたエリザベスカラーが揺れる様子がとても可愛く、この動きを形にしてみたいと思うようになったのです。首を振るといえば…赤べこだ!と思いつき、猫+赤べこを実現するため試行錯誤を開始しました

エリザベスカラーをつけて治療をしていました

もともと生物系大学院を出て研究職をしていた猫に真珠さんは、調べ物や試行錯誤が大の得意だったそう。幼いころに紙漉き体験や風船に和紙を貼る張り子制作の経験があり、また近くに和紙の産地があるなど和紙に親しむ環境が整っていたことも、制作のきっかけのひとつとなったとか。本やインターネットで張り子の技術を学び、納得のいく作品を完成させようとじっくり取り組みました。

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猫との記憶を再現するねこべこ

ひとつのねこべこを作るのにかかる時間は7〜10時間。乾燥の時間を含めると1週間ほどかかります。模様を似せて制作するオーダーメイドねこべこは、さらに時間を要すると言います。こだわっているのは、表情や模様など、猫の特徴をデフォルメしすぎずに表現すること。

エリザベスカラー時代と完治後の右近くんをモデルにした初期のねこべこ

簡略化しつつも表情や模様から猫らしさを感じてもらえるよう意識しています。特に写真に似せて制作するオーダーメイドねこべこでは飼い主さんの思うチャームポイントを表現するよう心がけています。

猫に真珠さんのお祖母さんは大の白猫好きで、性格の異なる3匹の白猫を飼っていたそう。その白猫たちのねこべこを制作した頃から、表情で性格を表現することを意識し始めたと言います。オーダーメイドねこべこ制作の際には、飼い主さんから性格や記憶に残っているエピソードを聞くようにしているそう。

その子らしさが内包された作品づくりを

ねこべこは姿形を完全再現するタイプの置物ではありませんが、首を振ることで生き生きと感じていただけるのではないかと考えています。今まで制作させていただいた猫ちゃんの中には既に亡くなっている子もいます。飼い主さんから「うちの子が帰ってきてくれたようで嬉しい」とメッセージを頂いたときは感激しました。

「『猫ちゃんを再現した置物』というより『猫ちゃんとの記憶を再現した置物』と表現するほうがしっくりくる」と猫に真珠さん。「ちょんちょんと首を揺らしながら猫ちゃんとの楽しいエピソードを思い出すきっかけになれたら嬉しいです」と話す言葉からは、猫を愛するあたたかな思いが伝わってきます。

ねこべこ誕生のきっかけとなった2匹の愛猫

そんな猫に真珠さんのもとには、右近くんのほかに、天くんという愛猫がいます。

洗濯機おもちゃが大好きな右近くんと天くん

ラガマフィンの右近くんはおっとりしていて芸達者な男の子。ハイタッチなど簡単な芸ができるものの、だっこや爪切りは苦手な気まぐれさん。もともと猫を飼うことに反対していたはずの家族が、右近くんに一目惚れしたことでお迎えが決まりました。お迎え時は体重2.7kgほどだった右近くんですが、今では立派に成長し5.8kgにまでなったのだとか。

すくすく健康に成長した右近くん

制作時には常に近くにいて見張られているので「品質管理部長」と呼んでいます。声であれこれ意思表示をしますが、声が高く可愛いので怖くありません。

一方、白猫の天くんは、2020年10月に突然庭に現れた野良猫でした。白猫好きのお祖母さんとの縁を感じ、近くの保護猫団体さんの協力を得て捕獲。しかし、猫ベテランの彼らをもってしても「これは懐かせるのは無理かも」と言われてしまったのだとか。警戒心が強い反面好奇心も強く、行動が大胆な天くん。シャーシャー言いながらも、初めて庭に来た日から人間が用意したダンボールに入って眠っていたという謎エピソードも。毎日遊ぶうちに人懐っこい甘えん坊に変身し、今では右近くん以上に甘えてくるようになったそうです。

慣れると甘えん坊な面が見えてきた天くん

いたずらっ子で、棚に飾ってある張り子人形を落とすので「耐久試験」と呼んでいます。張り子は中が空洞のため強い力に弱いですが、意外と壊れません。

品質管理は右近くんが、耐久性のテストは天くんが担当することで、ねこべこの高いクオリティを保っているよう。猫に真珠さんは「右近がいなければねこべこは生まれていなかったと思います。作品作りは猫たちの仕草をおおいに参考にしています」と話します。愛猫たちとの暮らしが、ねこべこ作りのインスピレーションの源なのです。

広がるねこべこの輪、新作も構想中

ねこべこの認知度が一気に高まったのは、このツイートへの大きな反響がきっかけ。

この黒いねこべこは、猫に真珠さんが「全力!脱力タイムズ」などにテレビ出演されている「国立環境研究所」の五箇公一先生へ贈ったものです。全身黒の服装とサングラスが特徴的な五箇先生の姿を再現したねこべこは、妙にひょうひょうとしていて、猫でありながら先生のイメージ通り。しかし、猫に真珠さん自身は、まさかここまでの反響があるとは思っていなかったそうです。

黒ずくめがトレードマークの五箇先生。

こうして認知度が高まったねこべこ。2024年4月末にはカプセルトイとして発売され、多くの方の手に取ってもらえるようになりました。

このような形で自分の作品を多くの方のもとへお届けできるなんて夢のようです。

自分のために始めた制作から、着実に評判が広まり、オーダーメイド依頼を受けるまでになったねこべこ。現在多くの注文を受けているため、お届けまでに時間がかかっているそうですが、ひとつひとつ心を込めて丁寧に作っています。猫に真珠さんの中には、構想はあっても実現できていないものが沢山あると言い、今後は新作も制作していきたいと意欲を見せます。

張り子の猫面で粋なポーズをとる右近くん

猫との出会いを経て、研究者からクラフト作家へ大きく転身した猫に真珠さん。

色々あり、研究者の道を諦めてしまいましたが、今このような形で手先の器用さを活かせていることが嬉しくてたまりません。クラフト作家としては少し変わった経歴かもしれませんが、今後も芸術系分野の勉強をしつつ、独自の張り子作りができればと思っています。

猫に真珠さんの言葉からは、愛猫、ひいてはオーダーのモデルとなる猫への深い愛情と、妥協のない作品作りへの、静かで熱い思いが感じられました。