自分の最期に想いを巡らせた時、動物好きの方ならきっと、社会の片隅で悲しい思いをしている犬や猫のために財産を捧げたいと思ったことがあるはず。そんな漠然とした思いを抱いている方は“犬猫の命を救うために遺産を寄付すること”を選択肢のひとつとして考えてみるのもよいかもしれません。
この選択を可能にしたのが、行政による犬猫の殺処分ゼロを目指して全国で不妊手術の奨励事業などを行っている「公益財団法人どうぶつ基金」。2019年12月22日、どうぶつ基金は「遺贈希望者に対する遺言信託業務の紹介に関する協定書」を、三井住友銀行と締結したと発表しました。
果たしてこれは、どのようなサービスなのか。詳しい内容やサービスの利用法をどうぶつ基金に伺いました。
―本日は宜しくお願い致します。まず、このような取り組みをされようと思った理由を教えてください。
「実は以前から支援者やご遺族から、遺産を動物愛護活動や犬や猫の殺処分ゼロ実現に役立てたいのでどうぶつ基金へ遺贈をしたいけれど、正しいやり方がわからない…という相談を多く受けていました。
そこで、どうぶつ基金への遺贈希望者に対する円滑な遺言信託業務を提供するため、協定を締結したのです。三井住友銀行が犬や猫の不妊手術奨励事業を手掛ける動物愛護団体と同協定を締結するのは、 どうぶつ基金が初めてです。」
―三井住友銀行と遺産寄付の協定締結は、どのくらい前から考案されていたのでしょうか。
「数ヶ月前、三井住友銀行から遺産寄付の協定締結のご提案を受けたときからです。」
―実際に「遺贈したい」と思ったら、どうすればいいのでしょうか。
まずは相談してください。どうぶつ基金では遺贈希望者が金融機関への相談を希望した場合、 協定締結金融機関として三井住友銀行の相談窓口を紹介いたします。
また、三井住友銀行では遺贈先が決まっていない遺贈希望者のご要望に応じ、協定締結団体のひとつに「どうぶつ基金があること」をご案内いただきます。ご自身の財産を動物愛護活動や犬や猫の殺処分ゼロ実現に役立てたいとの思いを受け止め、それを活用していくことは大きな意義があると考えています。
―遺贈できる金額に下限や上限はあるのでしょうか。
ありません。
―遺贈する際の注意点などがありましたら、教えてください。
遺言書の作成や手続きが正しくされていないと、せっかくのご意思が反映されないことがあります。金融機関が提供する遺言信託のサービスを活用することにより、より円滑な遺贈の実現が期待できますので、ご相談されることをおすすめします。
―ちなみに、自分のものではなく、相続した遺産なども寄付することができるのでしょうか。
はい、できます。どうぶつ基金に相続したご遺産を寄付することによって相続税の控除にもなります。どうぶつ基金への寄付は、税制優遇措置の対象です。所得税、法人税、相続税において、それぞれに定められている条件を満たすことで優遇措置を受けられます。申告に必要な領収書をお送りしております。
―遺贈したお金は犬や猫の殺処分ゼロ実現に役立てるとのことですが、具体的にどのようなことに使われるのでしょうか。
無料不妊手術をはじめとした、殺処分ゼロの活動に活かさせていただきます。
環境省が発表した2018年度の行政による猫の殺処分数は34,865頭でした。前年が45,574頭ですから、 殺処分数は1万頭以上減ったことになります。ここまで急速に猫の殺処分数が減った大きな要因は、全国で野良猫の無料不妊手術(さくらねこTNR)が進んだからだと思っています。
どうぶつ基金では殺処分ゼロを実現するために「無料不妊手術チケット」を発行していました。 本年度はチケット発行を開始した4月から、 わずか7か月でチケット発行数が27,408頭分を超えました。そのため行政枠、 多頭飼育救済枠は1月有効分チケットの発行を行っていますが、一般枠と団体枠のチケットの発行を停止しています。
今は未使用チケット数を計算して、 緊急な対応が必要な多頭飼育救済などに回せる数を日々調整していますが、それも限界が近づいています。
TNRによって殺処分ゼロを実現するためには「スグやる」「全部やる」「続ける」の3つすべてを守る必要があります。
どうぶつ基金では1匹でも多くの猫に不妊手術を施すことが殺処分ゼロを実現するもっとも有効な手段だと考えています。そこで2005年から全国の獣医さんや行政、ボランティアの皆さんと協働し、動物愛護事業の基軸として「さくらねこ無料不妊手術」を行っています。これまでに、10万頭の猫に無料で不妊手術を施してきました。
―「さくらねこ無料不妊手術」とは、どのような取り組みなのでしょうか。
飼い主のいない猫に対し「さくらねこTNR(Trap/捕獲し、Neuter/不妊去勢手術を行い、Return/元の場所に戻す、その印として耳先をさくらの花びらのようにV字カットする)」を実施します。こうすることで繁殖を防止し、「地域の猫」「さくらねこ」として一代限りの命を全うさせ、「飼い主のいない猫」に関わる苦情や殺処分の減少に目指しています。
どうぶつ基金では従来型の地域猫活動では、話し合いをしている間に猫の頭数が倍増して当初の予算では実施できなくなってしまうケースや、公園や大学などの“地域”が無いケースが多くあることを鑑み、「TNR先行型地域猫活動」の推進も行い、広義の地域猫活動などの活動支援を行っています。
―その取り組みを応援するには、どうしたらいいのでしょうか。
「さくらねこサポーター」というものがあります。継続したTNRを行うべく、毎月2,222円から支援できる仕組みになっています。
―遺贈以外にも、様々なサポート法があるということですね。とても勉強になりました。本日はお忙しい中、ありがとうございました。
これまで積み上げてきた財産を最期にどう生かすかは、自分の手に託されています。後悔しない終わりを迎えるには、犬猫への遺贈という選択肢があることも頭の中にいれておきたくなりますね。
<取材協力>
公益財団法人どうぶつ基金
https://www.doubutukikin.or.jp/