企画
飼い主亡き後も猫が幸せでいられる…家族を亡くした成猫と高齢者を繋ぐ「にゃんコール」

飼い主亡き後も猫が幸せでいられる…家族を亡くした成猫と高齢者を繋ぐ「にゃんコール」

加齢によって施設に入所することになった、入院治療をしなければならなくなったなど、猫と暮らしている中で、どうしても「やむを得ない事情」が生じると、愛猫を誰に任せ、どうサポートしてもらえばいいのか悩んでしまうもの。

また、獣医学の発展や高品質なペットフードの登場によって猫の長寿化が進む近年は、自分の年齢を客観的に見つめ、猫との暮らしを諦めている高齢者も少なくありません。

そうした悩みを解決するために奮闘しているのが、愛知県瀬戸市でキャットシッター「にゃんコール」を営む、鈴木優子さん。

にゃんコールの鈴木優子

動物看護士やキャットカウンセラーなど、猫に関する資格を多数保有する鈴木さんは家族を失った猫を、新たな家族に繋げる「つなぐ猫活動」に力を入れています。

スポンサーリンク



高齢者と家族を亡くした猫をマッチングする「つなぐ猫活動」

キャットシッターをする中で、様々な相談を受けていた鈴木さんは、やむを得ない状況で猫と暮らせなくなる状況が生まれていることや、子猫に比べて成猫の譲渡が進みにくい現状、年齢を考慮し、猫と暮らすことを諦めて孤独な日常を送る、猫好きの高齢者がいることに歯がゆさを感じていました。

だったら、家族を失った大人猫を、時間やゆとりがあるシニア世代の方に繋げよう。そう思い、4年ほど前から大人猫と高齢者をマッチングさせる「シニアtoシニア」という活動をスタート。

これまでに、20件ほど人と猫の縁を紡いできました。

活動をする中で、鈴木さんが大切にしているのは譲渡後のサポートにも力を入れることと、大人猫の魅力を伝えること。

困ったことや心配なことがあれば、いつでもご連絡いただくようにしています。定期的に様子を聞いてほしいなどのご要望や体調が悪い時のお預かり、旅行時のシッテングにも対応しています。

また、猫と暮らすことが難しくなった場合は、その先のことを一緒に考え、命を引き受けてもいる。

大人猫さんは性格が確立しているので、穏やかで寄り添ってくれる子を紹介し、お膝に乗ったり、一緒にお布団で眠ったりするには子猫さんより大人猫さんがいいことを説明し、安心していただけるようにしています。

これまで行ってきた「シニアtoシニア」の中でも特に印象的だったのは旦那さんを亡くし、ひとり暮らしをしていた70代のおばあさんと、飼い主を亡くして行き場がなくなっていたトンコちゃんの出会い。

6歳だった、トンコちゃん

おばあさんは最初、子猫を希望していましたが、鈴木さんは飼育の大変さや大人猫の魅力を伝え、穏やかな性格のトンコちゃんを紹介。

トンコちゃんはエイズキャリアであったため、人間のエイズとは違い、病気が発症せずに天寿を全うできる子もいることや、人にはうつらないことなども詳しく説明。

トンコちゃんが、もともと高齢の方と暮らしていたことも伝えたところ、おばあさんはお迎えを望んでくれました。

お迎え日、出会ってすぐ、トンコちゃんはおばあさんに抱っこされ、満足そうでした。家族を亡くしたトンコちゃんに、優しいお母さんができました。

また、元の飼い主さんが施設に入所した海老蔵くんの家族探しでは、新たな発見が得たそう。海老蔵くんは、年齢を考えて猫との暮らしを躊躇していた、おばあさん宅に迎えられることに。

おじいさんと暮らしていた6歳くらいの海老蔵くん

一緒に暮らすのが難しくなった場合は自分が面倒を見るから、母のためにも猫を迎えたい――。そんな娘さんの願いがある一方、当人であるおばあさんは不安が勝り、飼う決断をなかなか下せませんでした。

そこで、まず娘さん宅で海老蔵くんを預かり、おばあさんに毎日、写真や動画などを送ったり、たまに触れ合ったりしてもらうことに。

すると、おばあさんは送られてくる写真が楽しみで、ガラケーをスマホに変更。一方、娘さんのほうは、お茶目な海老蔵くんにすっかり心奪われてしまいました。

その結果、トライアルが終了する頃、娘さんは鈴木さんに「海老蔵は私たちが引き取りたくなった」と相談。おばあさんは海老蔵くんとの生活を通し、写真を見たり、たまに会ったりする距離感が心地いいことに気づいたそう。

最終的に、お母様のところに連れていくつもりだったのが、娘さんのおうちの猫として迎えられた。これは新しい、大人猫さんの譲渡の形でした。

そう振り返る鈴木さんは「つなぐ猫活動」には、高齢者の精神的・身体的なQOLをあげる効果もあると考えています。

これからさらに、高齢化や核家族化が進んでいく。ひとり暮らしや年配のご夫妻だけで暮らされている方に寄り添う大人猫さんがいれば、生きがいになり、社会との繋がりも生まれていくと思っていますね。

また、現在、猫と暮らしている高齢者にとっても、鈴木さんの活動は大きな意味があります。

もし、旅立つ時が来ても、大切な猫さんに新しい家族ができるということは大きな安心に繋がる。ある方に、「猫たちの明日が安心できたら、治療にも専念できる」と言われたことがありますが、本当にそうだなと。

現在、「にゃんコール」では、8匹の猫たちが新しい家族を待っています。

以前、癌を患われたご年配の方に言ってもらえた「大きな組織じゃないから、ひとりひとりの猫さんに目をかけてもらえるのがよかった」という言葉が心に残っています。大きなことはできないけれど、人や猫と向き合うことを大切にしたい

スポンサーリンク



猫カフェより「猫とのリアルな暮らし」が知れるキャットサロン

そんな鈴木さんは、猫カフェよりも「猫と暮らす」が深く知れる「キャットサロン」の運営にも力を入れています。

自宅を兼ねているので、トイレ掃除をしていればにおいが大丈夫なことなど、猫とのリアルな暮らしを味わってもらえます。また、これから家を建てる方や猫を飼いたい方へのアドバイスも行っていますね。

こうした空間を作ったのは成猫の譲渡を推進したいという理由だけでなく、猫に関する誤解を解きたいという思いもあったから。

巷では、猫は人に懐かない、臭い、壁を傷つけるなど間違った噂も多い。そんなことはないし、猫たちに教えていくこともできること。それを知ってもらい、猫たちとの生活は豊かである、癒しであると伝えたかった。

「キャットサロン」ではお迎えを検討している猫と実際に触れ合い、よりリアルな視点で家族に迎えられるか、考えることもできます。

猫という動物の魅力が正しく伝わるよう、奮闘し続ける鈴木さん。夢は、家族をなくした猫たちが伸び伸びと過ごせる施設を作ることです。

大人猫、老猫、病気の子、子猫などで部屋を分け、自由に猫たちが過ごせ、猫を迎えたい方が見学でき、譲渡会もできる施設を夢見ています。いつか、お仕事としてお手伝いしてもらえるよう、一般社団法人のような形にしたいとも思っています。

高齢者に限らず、自分の命がいつ、どうなるかは誰にも分かりません。だからこそ、愛猫の未来を守る鈴木さんの活動には、大きな意味があります。

これを機に、大切な“うちの子”が生涯、飢えや寂しさに苦しまなくてもいいよう、守り方を考えていきたくもなります。