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母猫から“命のバトン”を託されて──小脳障害と水頭症を持つ猫・ハチくんと飼い主が紡ぐ奇跡の物語

母猫から“命のバトン”を託されて──小脳障害と水頭症を持つ猫・ハチくんと飼い主が紡ぐ奇跡の物語

命の尊さや家族の温かさを、改めて感じさせてくれてありがとう――。愛猫ハチくんに、そんな言葉を贈るのは乳ガン闘病中の飼い主さん。ハチくんは生まれつき小脳に障害があり、水頭症の症状も見られました。

飼い主さんは、ハチくんとの日常をTiktokで公開中。一緒に暮らす中では、懸命に生きようとする姿勢の大切さを学んだと言います。

「小脳障害」がある子猫を母猫から託されて…

2022年6月頃、建設業をしている飼い主さんの旦那さんは、資材置き場で1匹の子猫を発見。子猫は立つことができず、グルグル回っていました。

近くに母猫の姿が見えたため、物陰に戻しましたが、その後、まさかの出来事が…。なんと、再び現れた母猫は子猫を咥え、旦那さんが見える位置に運んできたのです。

周囲には、カラスがたくさん。保護を決意した旦那さんから子猫を託され、飼い主さんは動物病院へ駆け込みました。

子猫は、生まれつき小脳に障害があることが判明。眼球が痙攣したように動いたり揺れたりする眼振も見られたため、大脳にも異常があるだろうと告げられました。

頭が大きく、目が少し飛び出していたので、脳脊髄液が過剰に溜まる水頭症も併発していると言われました。

まず行ったのは、ステロイドで脳圧を下げる治療。しかし、夜通し泣き叫び、苦しそうにグルグル回り続ける姿に家族は心を痛めました。

最終的には強い鎮静剤で眠らせてもらうことになり、昏睡状態になりました。それからは家族みんなで交代しながら寄り添い、見守りました。

もう、目を覚まさないかもしれない。医師からそう告げられ、覚悟をしていたからこそ、3日後に目を覚ましてくれた時には言葉にできない喜びと感動が…!

目を覚ました時、瞳からは「生きたい」という強い意志が感じられて…。まるで笑っているような表情をしていたので、思わず写真に収めました。あの日のまっすぐな瞳と微笑みは、一生忘れられません。

飼い主さんは奇跡が起きたその日の写真を、TikTokのアイコンに設定しています。



回復中には後ろ足が”逆方向”に曲がっていって…

家族は「ハチ」という名前を贈り、子猫を正式に家族の一員として迎え入れました。奇跡のV字復活を果たしたものの、獣医師からは「1年、生きられないかもしれない」や「歩くことは難しいかもしれない」などの厳しい言葉も告げられたそう。

しかし、ハチくんは自力でご飯を食べられるまでに回復。ステロイドによる治療も無事に終わり、穏やかな日々を過ごし始めました。

自力で立てるようになったのは、保護から約4ヶ月後。その頃から、まっすぐ伸びたままで力が入らなかった後ろ足が逆向きに曲がっていきました。

立てるようになったことで体重がかかり、曲がっていったように思います。ただ、生活には大きな支障はありませんでした。

むしろ、自力で歩けるようになったことで行動範囲が広がり、自由に興味のある場所へ向かうようになったそう。飼い主さんは、落下する可能性がある場所にはネットを張るなどの安全対策を行いました。

またいで入る一般的な猫用トイレを使うことは難しいため、段差のない段ボール製のトイレを手作り。寝床は、自力で登れる低い位置に設置するなどの工夫も取り入れたそう。また、座ったままでは上手に食べられないハチくんを気遣い、高さのあるフードボウルや水飲みを選んで、無理のない姿勢で食事ができるようにしました。

水頭症の影響で麻酔をかけると脳圧が上がって目を覚まさなくなる恐れがあるので、去勢手術はできません。また、どんな薬が脳にどのような影響を与えるか分からないため、できる限り投薬は行わず、自然な形で体調を見守っています。

希望や励ましに繋がってほしくて愛猫との日常を配信

ハチくんは脳障害の影響で「夜鳴きを繰り返す」「少し怒りっぽくなる」「夜中に徘徊する」などの行動が見られることがあるそう。少しでも心穏やかに過ごせるよう、家族は獣医師にご相談しつつ、抗うつ剤などの薬を使いながら対応しています。

普段のハチは、優しくて穏やか。でも、頑固な一面もあり、夫は「偏屈なところもある」と言っています(笑)そんな気難しさも、ハチらしい魅力のひとつです。

よく返事をしてくれ、安心しきった寝顔を見せてくれるところがかわいい。一生懸命に歩いてきて、頭をすりつけながら甘えてくる姿が愛おしい。そう話す飼い主さんは、家族しか知らないユニークな一面も教えてくれました。

リラックスしている時に、後ろ足を肩に乗せて座るという独特のポーズを見せてくれます。その姿勢が一番、安定するみたいです。

ユニークな寝相を見せてくれることも

そうしたハチくんとの日常をTiktokで公開している裏には、深い想いがあります。初めは死の淵を乗り越え、一時は走ることができるまでに回復したハチくんの頑張りを記録として残したいと思ったからでした。

しかし、飼い主さん自身、乳ガンの治療を受ける中で、心境に変化が。ハチくんが懸命に生きる姿に何度も励まされて自分を鼓舞したり、命”について深く考えるようになったりし、「ハチの生きる力をたくさんの人に見てもらいたい」と思うようになったのです。

ハチの存在が、誰かの希望や励ましに繋がれば─…。そんな願いを込めて、日々の姿を発信するようになりました。

夜中の見守りや排泄のお世話など大変なことはあるけれど、それ以上にたくさんの癒しをハチからもらっている――。飼い主さんは一緒に過ごす日常の中で、そうしみじみ感じているようです。

ハチが家に来てから家族の会話が増えて、絆がより深まりました。ハチを通して知り合えた方々との出会いも、私たちにとってかけがえのない宝物です。

飼い主さんの深い猫愛は、ハチくんにもきっと届いているはず。頑張り屋のハチくん、これからも自分らしい日常を楽しんでね。