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豪雨災害後、お城に現れた1匹の猫 岡山・備中松山城の「猫城主」さんじゅーろーくんの誕生秘話

豪雨災害後、お城に現れた1匹の猫 岡山・備中松山城の「猫城主」さんじゅーろーくんの誕生秘話

岡山・高梁市にある「備中松山城」は日本で唯一、昔の天守(城の中心的な建物)が山の上(山城)に残っている貴重な文化財施設です。そんなお城で現在、「猫城主」に就任し、PR活動などに励んでいるのが、猫のさんじゅーろーくん。

さんじゅーろーくんはどのような経緯から「猫城主」となり、どのような暮らしを送っているのでしょうか。これまでの歩みをうかがいました。

西日本豪雨後に現れた猫がお城に住み着いた

すベての始まりは、2018年7月に起きた西日本豪雨災害です。備中松山城も登城道の土砂崩れなどの被害に見舞われ、地域住民たちボランティアによる復旧活動が行われました。

7月下旬、備中松山城の管理人さんらは、城の大手門付近で1匹の猫と出会います。その猫は痩せていたものの、元気はあり、人間を警戒しませんでした。

首輪は付いていないけど、どこかの飼い猫ではないかとの思いもありました。

管理人さんは、手作りの小屋をプレゼント。しかし、猫ちゃんは入らず、城内を自由に歩き回ることを選択。朝になるとご飯をねだり、夜はお城で眠るようになりました。

そんな姿がSNSや口コミで話題になり、お城への来場者は急増。同時期、観光協会の職員たちは備中松山藩の出身で新選組の七番組組長を務めた武士「谷三十郎」のPRを考えていたため、猫ちゃんには「さんじゅーろー」という名前が贈られました。



「飼い主がいたなんて…!」出会いから3ヶ月後に判明した新事実

観光客からのラブコールを受けながら、お城で気ままに過ごすようになったさんじゅーろーくん。そんな中、予期せぬ出来事が起きます。なんと、さんじゅーろーくんの飼い主だと名乗る人物が現れたのです。

実はさんじゅーろーくん、飼い主さん宅のベランダから脱走し、お城に辿りついた猫でした。飼い主さんはずっと捜索を続けており、3ヶ月かけてようやく、さんじゅーろーくんとの再会を果たすことができたのです。

すぐ、観光協会へお越しになり、連れて帰りたいと強く願われました。深い愛情ゆえに、とても心配されていたのだと感じました。

しかし、さんじゅーろーくんはすでに、お城のPR大使とも言える存在になっていました。そこで、観光協会の職員らは飼い主さんと話し合いの場を設け、「お城で引き取りたい」との想いを伝えました。

その日に連れ帰るつもりだった飼い主さんは職員たちの熱意を知り、ひとまず帰宅し、家族会議。悩んだ末、さんじゅーろーくんを観光協会へ託す決断をしました。

本当は連れて帰りたいけど、お城でのびのび暮らしている姿を見て、『ここにいるほうがこの子にとって幸せなのでは』と思われたそうです。愛情をもって大切にお世話することを条件にお譲りいただきました。

飼育方法を見直すきっかけとなった「19日間の脱走劇」

こうして、さんじゅーろーくんはお城の管理人さんからご飯を貰いながら生活をするようになりました。この頃はお城での生活をしながら、ふらっと外出する日々を送っていたそうです。

ところが、飼育環境の在り方を見直すこととなる重大事件が起きます。ある日、高梁市観光協会の職員は翌日に控えた取材のため、さんじゅーろーくんを自宅へ連れ帰りました。それは、記者がさんじゅーろくんと確実に会え、スムーズに取材が行えるようにとの配慮からでした。

普段のさんじゅーろーさんはとてもおっとりしていたため、安心感もあったのか、家の門前でキャリーケースを開けたところ、さんじゅーろーくんはものすごいスピードで逃亡してしまったのです。

職員らはチラシも作り、総出で捜索。発見されたのは、逃亡から19日目のことでした。さんじゅーろーくんが無事だったことに関係者はみな、安堵。しかし、この脱走事件は猫という生き物との関わり方を見つめ直す大きな転機となりました。

さんじゅーろーくんをお城で暮らさせてあげるには、まず自分たちが猫の生態を理解し、安定した生活を送れる基盤を整えてあげなければならない。そうするには、備中松山城という文化財施設で、どのように猫を受け入れたらいいのか。

話し合いには、獣医師も参加。関係者らは猫の生態を学ぶため、獣医師を招いた勉強会を開き、さんじゅーろーくんの快適な暮らしと観光PRを両立させるための方針を話し合いました。

飼育の在り方を見直して 「再入城の儀」で正式に猫城主に

話し合いの結果、さんじゅーろーくんは正式に「猫城主」という役職に就任し、管理人さんたちがいる管理事務所で過ごすことになりました。

2018年12月16日、お城ではさんじゅーろーくんの猫城主就任のために「再入城の儀」が行われ、多くのメディアや来城客が押し寄せました。

堂々と赤い絨毯の上を歩き、キャットフードを食べる姿を披露した

元飼い主さんもお祝いしに駆けつけてくれ、とても嬉しかったです。

なお、今まで城内を駆け回っていたさんじゅーろーくんにとって外へ出られないことがストレスにならないよう、「城内見回り」と称し、毎日10時と14時には散歩タイムが設けられるようになりました。

散歩は今、「城内見回り」として来城客が癒されるイベントのひとつになっています。

お散歩タイムでは、リードをつけています。基本的にはさんじゅーろーが行く方向に人間が付いていくスタイルです。歩きたがらない場合は、抱っこで目的地まで連れていきます。

他にも、さんじゅーろーくんは曲者退治の訓練(猫じゃらしで遊ぶ)やお昼寝姿の公開で癒しを与えるなどして、猫城主としての職務を全うしています。

地元の企業からきらびやかな「御座」をもらったことも

お散歩の時間以外は、好きなように過ごしてもらっています。基本的に外が好きなので、自由に建物内へ入れるようにし、屋外には日よけを設けるなど専用の居場所を設けています。

さんじゅーろーくんは推定11歳とシニア。そのため、体重測定や健康診断を受けるなどの体調管理も欠かせません。

異変にすぐ気づけるように飼育管理表を作り、食事量や排泄量や色など、体調の確認を行っています。

功績を称えてオープンした「さんじゅーろーあしあと館」

就任から5年後、さんじゅーろーくんの功績を称えて、城下町にある武家屋敷(旧埴原家)の一角に「さんじゅーろーあしあと館」という記念館がオープンしました。

備中松山城は山の頂上に立つ山城のため、登城が困難なお客様もいらっしゃいます。そのような方も含め、色々な方にさんじゅーろーのことを知ってもらえたり、楽しんだりしてもらえたら…との想いからオープンしました。

館内にはさんじゅーろーくんの巨大パネルも!

「オープンの儀」を行った日には、さんじゅーろーくん本人も登場。職員らも驚くほど多くのファンがオープン前から駆けつけました。

館内にはフォトスポットや映像コンテンツ、グッズ販売コーナーなどが設けられており、まさにさんじゅーろーくんづくしの空間。さんじゅーろーくんに関するクイズラリーなどのイベントも季節ごとに開催されています。

さんじゅーろーが自分で選んで住みついた備中松山城という場所で安心して暮らせるよう、そして観光施設としてお客様と良い関係を築けるように環境を整えることが、私たちの責務だと感じています。

2025年に行われた還暦祝い

今や、高梁市を代表する人気者になったさんじゅーろーくんはまさに、招き猫。

さんじゅーろーの話題を通して生まれた事業者さんとの繋がりも多くありますし、お客様からペットの話題を聞くようにもなりました。『こんなすごい子、他にいないでしょ!』と自慢したい思いです(笑)

単に猫のかわいさを消費して地域を盛り上げるのではなく、ひとつの命と誠実に向き合い、受け入れ方を真剣に考え、地域復興に繋げていった高梁市観光協会。その温かな姿勢には、学ばされることが多くあります。